それまで興味のなかったヘッドフォンにぼくがハマりだしたのは、なにげなく店頭でノイズキャンセリング機能つきの高級ヘッドフォンを試してみたのがきっかけ。
周囲の音をパッと消して時には音楽にじっくり浸らせてくれる、そして時には静寂な作業環境を作ってくれる。
“音楽を聞く”という機能もさることながら、自分の世界と外界の境界線をコントロールできるノイズキャンセリングヘッドフォンの面白さと奥深さ知ったのです。
ある製品は徹底的に音の世界に浸らせてくれたり、またある製品はファッション感覚で付けていたくなる。同じように見えるノイキャンヘッドフォンも、使ってみると様々な個性があることに気がつきます。
では今回ご紹介するBowers & WilkinsのPXというノイキャンヘッドフォンはどんな個性を持っているのか。ひとことで表現するなら“日常使いのフラッグシップ”という言葉がぴったりだと感じました。
50年以上の歴史を持つオーディオメーカー「Bowers & Wilkins」
Bowers & Wilkins(バウワース アンド ウィルキンス)は1965年に設立されたイングランドのオーディオブランド。
Hi-Fiスピーカーの世界的ブランドであり、世界で最も有名な録音スタジオの1つである「アビー・ロード・スタジオ」をはじめとし、世界のあらゆるスタジオの標準スピーカーとして30年以上採用され続けている実績を持ちます。
紹介するPX Wireless Headphonesは2017年11月に発売されたBowers & Wilkins社の高級ヘッドフォンです。
冒頭で本機を“日常使いのフラッグシップ”と表現した由来を、各機能を細かく紹介しながら説明していきます。
各機能はぼくが日常的に使っていて、かつPX Wireless Headphonesと対照的な特徴を持つSONYのノイキャンヘッドフォンWH-1000XM2と適宜比較しながら見ていきたいと思います。
スタイリッシュな見た目
まずは外観から。Bowers & Wilkins PXはヘッドフォンの中でも随一のスタイリッシュな外観。他にも色々と比較点はありますが、見た目だけで選びたくなってしまうほどの魅力があります。
上品で落ち着きのあるグレートーンを中心に、メタルとファブリックを組み合わせた作りはカジュアル過ぎず、かといって家電っぽ過ぎない絶妙なバランス。
ヘッドバンドからハウジング部分に伸びるアーム部分には、大胆にも配線をむき出しにする“見せるデザイン”が印象的。もちろんコードは固定されているので、引っかかったり弛んだりする心配はありません。
SONYのWH-1000XM2はヘッドフォンらしいしっかりとした作りなのに対し、Bowers & Wilkins PXはより線の細い洗練されたデザインです。
耳が蒸れにくい装着感
Bowers & Wilkins PXは耳をすっぽりと覆うオーバーイヤー型のヘッドフォン。
特徴的なのはイヤパッドの質感と形状。やや固めで高さのあるクッションを使用しており、クッションと肌との接地面が少ないので蒸れにくく長時間の使用に適していると感じました。
また装着感として見逃せないのは側圧。WH-1000XM2は側圧が強く、長時間使うと辛くなってくることがありました。
Bowers & Wilkins PXは個人的にずっと使っていても頭が痛くならない、絶妙な側圧。日常的に使っていられる快適さです。
聴き疲れしない優しい音質
Bowers & Wilkins PXの音質は解像度が高くクリアで繊細。
他メーカーに比べて音のダイナミックさや音圧は控えめですが、そのぶん聴き疲れせずずっと聴いていられる優しい音だと感じました。
高音の音質
高音は伸びがありつつも耳を刺すようなトゲはない、澄んだサウンドです。静かなピアノジャズや女性ボーカルと相性が良いと感じました。
低音の音質
低音に関しては鼓膜を揺らすような音の圧力はそこまで感じませんが、しっかりと深みや楽曲の迫力を感じられます。
ノイズキャンセリング機能で音質が変化
全体的に高いレベルでバランスのとれた音質ですが、一点気になったのがノイズキャンセリング機能使用による音質の変化。
ノイズキャンセリングをオンにするとクリアな音質が一転、全体的に少しこもりがちに変化します。
ノイズキャンセリング機能による音質変化(劣化)はどのヘッドフォンでも多少はありますが、Bowers & Wilkins PXの場合はそれがやや顕著。オフ時の音質は悪くない故に差が目立ちます。
詳しくは後述しますが、Bowers & Wilkins PXのノイズキャンセリングは「外界の音を遮断する」というよりも、「外界とのつながりをコントロールする」という点に主眼が置かれた機能。
そんなノイズキャンセリング機能の設計思想もあり、ノイズキャンセリングオン時は音に浸るというよりも“耳元に自然に流れるBGM”という感覚が近いかも。
音漏れが気になる
音質そのものではありませんが、Bowers & Wilkins PXで気になるもう一つの点が音漏れ。
外部遮断性は高いので外の音はあまり聞こえないのですが、ボリュームをあげると比較的音漏れしやすい作りです。
こうした点でもやはり外部との世界を切断して音に浸るような設計思想ではないのかもしれません。
体の一部のような自動オンオフ動作
いくつか気になる点を書きましたが、操作性に関してはBowers & Wilkins PXは快適そのもの。特に自動オンオフ動作は便利すぎて感動すら覚えます。
自動オンオフ動作とは装着状態からヘッドフォンを外すと自動で楽曲が一時停止、付けると再生が再開されるという機能。
WH-1000XM2などにもよくあるこの機能。しかしBowers & Wilkins PXが優れているのは電源オフ時でもヘッドフォンを装着するだけで電源オン→Bluetoothe接続→楽曲再生までを全て自動で行ってくれる点。
音楽を聴くまでに必要な面倒な接続操作は不要。ヘッドフォンを耳に装着するだけで音楽が始まります。
音楽を聴くことの動作ハードルが極限まで下がることにより、音楽を聴く聴かないの境界が限りなくシームレスになります。
「音楽を聴こう」「自分の世界に入って集中しよう」と身構えるのではなく、日常の中で自分の世界と外界を軽やかに行き来する。そんな使い方がBowers & Wilkins PXには合っているように感じます。
どんな環境でも使える3つのノイズキャンセリングモード
そんな日常使いを支えるもう一つの機能が「Bowers & Wilkins Headphones」というコンパニオンアプリ。
これはBowers & Wilkins PXに接続してソフトウェアバージョンを管理したり、前述した自動オンオフの感度を調整したりできるアプリ。
さらにこのアプリからはノイズキャンセリング機能をコントロールする、3種の環境フィルターの調整も行えます。
これは「オフィス」「シティ」「フライト」の3つのシーンで、それぞれ最適なノイズキャンセリングおよびボイスパススルー(外界の音声をマイクで拾って感知する機能)を設定しておけるというもの。
例えばそれぞれのシーンにおいて、環境に応じて下記のような音量調整をしながら使うことができます。
- オフィス:隣の同僚の声が聞こえる程度までボイスパススルーを強める
- シティ:人の話し声はキャンセルしつつ電車や車の接近を聞き取れるようにする
- フライト:エンジンの音を極力遮断して快適な音楽環境を得る
完全にノイズを遮断するという発想ではなく、日常的なシーンに合わせてキャンセル具合を調整するというのが他の製品にないポイント。
1日中使えるバッテリーライフ
Bowers & Wilkins PXはノイズキャンセリングオン / Bluetooth接続状態で最大22時間の長時間バッテリーを搭載。
WH-1000XM2の30時間に比べるとやや見劣りしますが、それでも1,2日であれば充電なしでも十分安心して使えるレベルです。
常に音楽を聴いていたいという人へ
日常使いとして常に手元に携え、必要に応じて周囲の音を取り入れたりキャンセルしたりしながら、自分の世界と外界をシームレスに行き来する。
他のノイズキャンセリング製品がどれだけ外界をシャットアウトして自分の世界に没入できるかに凌ぎを削る一方で、Bowers & Wilkins PXはいかに外とつながりを保ちつつパーソナルな空間を作り出すかに挑戦しているように感じます。
快適な装着感、ストレスフリーな操作性、聴き疲れしない音質、ロングバッテリーなど。Bowers & Wilkins PXの特筆的な機能は全てこの「日常の中に自然に音楽空間を作り出す」というコンセプトから設計されているような気がしました。
- 常に音楽を聴いていたい人
- 外出先でもヘッドフォンを使いたい人
- おしゃれなヘッドフォンを探している人
Bowers & Wilkins PXの提案する使い方にハマるのは、きっとこんな人。
あなたの日常を彩る普段使いのヘッドフォンとして、ぜひ選択肢の1つに入れてみてください。音楽があなたにとってより生活に近い存在になるはずです。
より“具体的な”使用イメージが知りたい方はこちらも
この記事では主な機能について詳細にレビューしてきました。記事の中でも書いた通りこのヘッドフォンは日常使いしてこそその価値が発揮されるもの。
今回はDRESS CODE.と同時に、“ときめくモノを集めよう”をコンセプトにしたモノ系メディア「monograph」でもレビュー記事を執筆しています。
そちらはより具体的な日常での使用シーンに焦点を当てて記事を書いているので、合わせて読んでみてください。