『ISSUE DRIVEN』読みました。
筆者は戦略コンサルでの勤務経験、脳科学の研究者などの経験を経て、現在はIT企業でCOO室室長を務めるというちょっと変わった経歴の持ち主。
その経歴を生かして、本書では「知的生産効率化」をテーマにビジネス・アカデミックの区別無く2つの領域に対して共通する主張を展開しています。なのでビジネスパーソン向けであり、かつ研究者向けというちょっと変わった本。
ビジネスとアカデミックは切り分けて論じられることが多いけど、コンピューターの発展により時間ベース単純労働の価値が低下して、アウトプットベースの知的生産の価値が高まりつつある今の状況を考えると、今後は両分野の区別がますます曖昧になってくるのかも、と思いました。
そして肝心の内容は、ざっくり言うと「イシュー(≒解決すべき課題)の設定をしっかりして、本当に必要なことだけに力を注ごう」といった感じ。
イシューの設定とは具体的に「①仮説を立て」「②仮説に沿ってイシューを分解し」「③ストーリーラインを組み立てる」といった流れになるという。以下それぞれをちょっと詳しく書いていきます。
①仮説を立てる
「仮説を立てて、それを検証していこう」といった仮説検証思考は巷でもよく聞かれることですが、その一般的な流れは
データ収集→分析→仮説立て→仮説を元に行動→行動結果から仮説を検証
といった流れになると思います。
しかし筆者は本書で問題設定の段階で前倒し的に仮説を立て、それに従ってイシューを設定し、データ収集を行うべきであると述べています。そうすることによって「必要な情報・分析すべきことが分かる」「分析結果の解釈が明確になる」と言います。
例えば「〇〇の市場規模はどうなっているか?」ではなく、「〇〇の市場規模は縮小に入りつつあるのではないか?」と仮説を立てることではじめて本当に取るべき行動が分かると。
②仮説に沿ってイシューを分解する
イシューはそれ自体が大きな課題なので、それを解けるサイズにまで分解する必要があるといいます。
具体的には「電子商品券という新しい商品を開発せよ」という状況に置いては「商品開発」というイシューを
「1、核となるコンセプト」「2、エコノミクスの枠組み」「3、ITシステム」「4、マーケティング」「5、戦略的提携」「6、店舗支援業務の設計」
というレベルにまで分解し、サブイシューとして設定しなければならない。逆にここまで分解できると、取るべき行動や進捗状況、施策の優先順位などが明確になる。
③ストーリーラインを組み立てる
ここまでくると、後は分解したサブイシューをどのような順番で並べるかを考える、ストーリーライン構築段階にはいる。
ストーリーラインを構築する理由としては分析結果を箇条書きにしただけでは、部分的で相手を納得させることができないから。さらに物事の結果のみ、または原因のみを取り上げて多くの人が「手がつけようが無い」と感じる問題でも、施策全体の順番を変えることで解決策が生まれる可能性があるからだという。
大筋はこんな内容で、あとは分析を行う際、プレゼンを行う際の具体的な注意点などが詳述されていました。
全体として筆者は「アウトプットに関わる行為以外はすべて無駄であり、問題に取り掛かる前にイシューを設定し、そこから見えて本当にやるべきことだけを行うべきだ」ということを強く主張してしていました。
コンサル出身者らしく、思考のフレームワーク的な内容が多かったですが、同じような趣旨の著書に比べて「問題解決そのもの」よりも「解決すべき問題の設定、解決すべき手順」のようなメタ的な点に視点を当てていたのが新鮮だった。
特に③のストーリーラインを組み立てるという考え方は、以前講演会で聞いた『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)の著書である楠木建氏の話と通ずるところがあり、とても興味深かった。またその時の講演内容も時間があれば書きたいと思います。
筆者が強調していた「根性に逃げない」という言葉がシンプルですごく心にささった。
単純労働ではなく、知的生産を対価として提供する人間になるために大切にしたい言葉。