ぼくにとって初となる中判フィルムカメラPlaubel makina67を購入してから1年ちょっと。
蛇腹構造を持ったレンズ一体型の構造で、フルサイズよりもさらに大きい中判フォーマットを持ったフィルムカメラ。数多くあるフィルムカメラの中でも色褪せることのない、不朽の名機です。
このカメラを買ってから1年でだいたいフィルムで30ロール、300枚ほどの写真を撮影してきました。
今回はこのmakina67で撮影した作例を紹介しつつ、1年間じっくり使ってみて感じた使用感や感想をレビューします。
また記事の最後にはフィルム写真がどんどん衰退しフィルム価格が高騰していく中で、今の時代に中判フィルムを使って写真を撮影するぼくなりの理由も考えてみました。
日常使いもできるコンパクトボディ
フィルムフォーマットが大きい中判カメラはカメラ本体も重く大きくなりがち。例えば同じ中判フィルムカメラであるHasselbladやPentax 67はかなりのサイズがあります。
それに比べてmakina67はレンズ一体型であることやレンジファインダー構造も相まって、中判フィルムカメラにしてはコンパクトなサイズ感。もちろん一般的な35mm判フィルムカメラに比べると大きく重いですが、ギリギリ日常的にも持ち出して使えるレベルです。
ただでさえコスト面などを考えても使うのに腰が重くなりがちな中判フィルムカメラ。なんでもない日に持ち出せるという機動力があることで、ぼく自身使う心理的ハードルがずいぶん下がった気がします。
その軽さを活かして2週間のオーストラリア旅行にもmakina67を持っていきました。気球やヘリコプターに乗りながらカメラを振り回したりフィルムを交換したり、コンパクトサイズだからこそ生まれたシャッターチャンスも多かったです。
瞬間を逃さない操作性
マニュアルカメラであるmakina67はレンズの周囲にある絞りリングとシャッタースピードリングを回して露出を調整し、シャッターの周囲にあるピントダイヤルでフォーカスを合わせます。
これまで使ってきたカメラではピントリングはレンズ側にあることがほとんどで最初こそ操作に迷いましたが、慣れるとこれが非常に使いやすい。
露出よりも細かく調整する機会が多いピントを、右手の小さなダイヤルを回すだけで動かすことができるこの操作系は使っていて理にかなっていると感じました。
正確で分かりやすい露出計が搭載されていたりレンジファインダーの二重像も比較的見やすいので、暗所での撮影やスナップ的に瞬間を切り取るような撮影が可能です。
フィルムらしからぬ圧倒的な解像度
makina67を使って感じるのは写真の圧倒的な解像度。良い意味でフィルムっぽさを感じさせない、細部までカリッと写る描写は圧巻です。
写し出す写真があまりにも鮮明なので、普通の人に見せてもフィルムで撮ったとは思われないことがほとんどです。
これは中判フォーマットであることはもちろん、makina67に使われているNIKKORレンズの一役買っていそう。makina67はボディ部分がコニカ製造にもかかわらず、開発者が「レンズはどうしてもNikon製を使いたい」と言い張って採用されたそうです。
高い解像度と鮮明さがあるので、例えばA3サイズに引き伸ばしてプリントしても高精細に仕上がります。最近はmakina67で撮影したフィルム写真を大きくプリントして部屋に飾るのにハマっています。
またネガだけでなくリバーサルフィルムでも撮影しましたが、初めてルーペでフィルムの中の世界を覗き込んだ時は、まるでもう一つの世界がその中に広がっているようで思わず息を飲みました。
手で触れられるような立体感
makina67に搭載されているのは焦点距離80mm、開放F値2.8の単焦点レンズ。35mm判で考えると開放F2.8と明るさは控えめな印象ですが、中判フォーマットならではボケや立体感は上手くハマると3D映像のような立体感が得られます。
一般的に撮像面積が大きい方が同じ焦点距離とF値でもボケ量は多くなります。中判で80mmという焦点距離は35mm判に換算すると約40mm。画角は40mmなのにボケ感は35mm判で85mm中望遠くらいの感覚があって、このバランスが最初はかなり新鮮に感じた記憶があります。
絞りを開けば被写体が際立つポートレート撮影にも、
そして絞れば周辺まで写し込む風景写真とさまざまな撮影に使うことができます。
この時代に中判フィルムで撮る意味
1枚200円。このmakina67を使って撮影するのに掛かる写真1枚あたりのコストです。そしてフィルム価格高騰によってこれはどんどん高くなっています。
対するデジタルカメラは連写性能がどんどん進化し、超高解像度でトリミングも自在。SDカードなどの記録メディアの価格も下がり続け、撮影1枚あたりのコストを意識することすらほとんどありません。
こんな時代になぜ中判フィルムで写真を撮るのか。
ぼくはフィルム写真の魅力はその瞬間という“一回性”だと感じています。
1枚撮影するのに手間もコストも掛かるからこそ撮影の過程に楽しさを見出したり、1回のシャッターに真剣に向き合ったり、上手く撮れた時は嬉しくなったり。
“(連写・フォーカスが)早い・(撮影コストが)安い、(簡単に)上手く撮りやすい”とデジタルカメラがどんどん進化を続けるからこそ、その対局にあるフィルムカメラの価値も増していくのだとぼくは思います。
だからこそ1ロール10枚そこら、撮影メディアであるフィルムの価格も上がり続けて1回あたりのコストが高い中判フィルムはデジタルカメラとは対岸に位置する存在。
フィルムカメラの面白いところをぎゅっと詰め込んだ魅力が、中判フィルムにはあるのだとぼくは思います。(撮影コストはもうちょっと安くなって欲しいけどね)
1年間使い続けて手指にも馴染んできたPlaubel makina67。来年もたくさん使って行こうと思います。