「早く行きたいなら1人で行きなさい、遠くへ行きたいならみんなで行きなさい」という言葉があります。
なるほど今立っている場所から後ろを振り返ると、確かに遠くまで歩いてきたなと感じます。
その足跡の始まりを辿ると6ヶ月前。銀座にあるビルの会議室で「2人が“本当に欲しい財布”を提案してくれませんか?」と言われたところからこの話は始まります。
61年目の歴史、1年目の革新
「“本当に欲しい財布”を提案して欲しい」とリクエストをくれたのは、1957年創業の革小物メーカーPRAIRIE(プレリー)。
創業61年目を迎える老舗であるプレリーから「若い人が欲しいと思えるものを一緒に作りたい。」とオファーを頂いたのです。
製品企画は全て任せるとのことで、そこで出たのが冒頭の「2人が“本当に欲しい財布”を提案してくれませんか?」という言葉。
ただし1つだけ条件を告げられます。
「どんな突飛な物でも構わないので、できるできないという実現性はまずは抜きで考えて欲しい。既存の製品の色違い・素材違いとか、そういうありきたりなのはナシにしましょう。」
かくして創業61年目の老舗企業と、創業1年ちょっとのdripとのタッグが生まれました。
まずは信頼できる2,3人に相談
“本当に欲しい財布”を提案する、とはいっても製品を企画するのは初めての経験。ぼくも堀口も、何をどう進めていっていいのかすら分かりません。
そこでまずは日頃から交流のあるブロガーや経営者の方など、信頼できる2,3人に相談することに。
みなさん親身に相談に乗っていただき、どういう製品があれば欲しいと思うか、そしてどうやって企画を進めればいいかなど、企画の大きな方向性がここで固まりました。
20人の革モノ好きによる座談会を開催
「同世代の人たちはどんな財布が欲しいんだろう?」
企画を進めるにあたりまずはいろんな意見を集めてアイデアを発散させようと「革モノ好きによる座談会」というイベントを開催。
各々がお気に入りの革小物を持ち寄ってその愛を語ったり、自分にとって理想の財布を考える。みんなの意見を聞きたいという目的で開催したイベントですが、ぼく自身革小物好きとして大いに楽しんだイベントでした。
- 長く愛せる革素材を使った財布
- コンパクトで使いやすい機能的な財布
参加者20名の意見はそれぞれ違う部分もありながら、根底にあるのはこの2つの要素だと感じました。手探りながら少しずつ歩むべき道が見えてきました。
第98回東京レザーフェア にて革素材を探す
本当に欲しい財布を作るにあたって、質の高い本格的な革素材は必要不可欠。
素材選びだけは妥協できないということで、プレリーさんに無理を言って5月24日に浅草で開催された東京レザーフェアに参加させてもらうことに。
広いフロアにひしめく革の卸問屋。これが5フロア分ほどぶち抜きで行われる東京レザーフェア。その革の多さに軽いめまいを感じるほど。
プレリーさんに紹介してもらいながら1日掛けて数十社以上を訪問し、担当者の方にそれぞれの革の特徴や魅力を教えてもらいます。
おびただしいほどの革素材に見て触れて革素材がゲシュタルト崩壊しつつあるなか、見せてもらった「熟成レザー」という素材に一目惚れします。
ちょっと変わった素材で製品として使うのにハードルもありましたが、なんとかこれを使わせてもらえることに。どんな特徴の革素材なのかは、下記の記事を読んでみてください。
満足できる革素材を買い付けできたことで、作るべき財布がだんだんと具体化してきました。
ゼロから考えた、新しい財布のカタチ
革素材が決まったら次は財布の形を考えます。座談会ででた意見を元に、2人の「こんな財布があったらいいよね」という希望も含めてアイデアを具体化していきます。
本当の財布づくりではPCで図面を引いたりするのかもしれませんが、ぼくらの物作りの記憶はワクワクさんで止まったまま。紙とセロテープで切り貼りしながら作っていくことにしました。
切って貼って剥がして。自分たちの工作スキルに絶望するとともに「ほんとにこの紙ペラで財布が作れるのか?」と不安になりながらも、とにかく頭の中のアイデアを人に伝えられるカタチにしていきます。
半日ほどかけてできた紙のモックがこれ。見た目と作りの酷さはあるものの、文字通りゼロから考えて作り上げた新しい財布の形です。
半日と一瞬
革素材と理想の形。この2つを組み合わせて“本当に欲しい財布”が完成しました。早速ここまでの成果をプレリーに報告しにいくことに。
「これは斬新だねぇ。こんなぐちゃぐちゃのモック初めてみたよ笑」
プレリーの担当者の方に笑われながらも「コンセプトは面白い」とのこと。ただ「このままでは製品にするのは難しい」ということも言われました。
革の縫い代、厚みを考えた余白設計、耐久性の観点からの設計見直し、使い勝手の向上。ちょっとサンプルを見ただけで、少なくともこれだけの指摘ポイントが出てきました。
「要するにこういうことじゃない?」
そう言ってぼくらの設計図に担当者の方がペン入れを行なっていきます。不要なパーツは省く、革は薄くすく、耐久性に関わるパーツは足す、サイズに少しだけ余裕を持たせる…。
モックから作りたいものの意図を理解し、ぼくらが半日掛けて作った設計図を実現可能な形にまで一瞬で落とし込んでくれました。
「せっかく面白いアイデアを出してもらったからね。お客様が欲しいと思うものを形にするのが私たちの仕事なので。」
こうして出来上がった設計図を元に、いよいよ熟成レザーを使ってファーストサンプルを製作することに。
ファーストサンプルの製作現場を見学
普段は滅多に見ることはできないのですが、今回は特別にサンプルの製作工場まで見学させていただけることに。
「ここは裏地で補強した方がいいですね。」
「ここのステッチの色、どうしますか?」
日本の職人が3,4人総出で分担しながら革を裁断し、接着し、縫い合わせていきます。細部はその都度相談しながら、少しでも小さく丈夫な作りになるよう仕上げていきます。
そうして完成したのがこのファーストサンプル。
サンプルが完成したとはいえ、財布は使ってみないと分からない部分も多いもの。作ってもらったサンプルを実際に2人で使ってみながら、見つけた課題点を次回のサンプルで修正するということを繰り返します。
サンプルを持っている時は出来るだけ周りの友人にも見てもらい、出てきた意見も製品に反映させました。
繊研新聞の一面に活動が掲載!
こうして財布完成に向け試作を繰り返していたところ、ファッション業界でも権威のある繊研新聞にて活動を取材していただけることに。
【繊研新聞一面トップに掲載!】
なんとなんと!!
drip(@drip_corp )が革小物メーカーのPRAIRIE(プレリー)と共同で取り組んでいる「#僕たちの財布 」プロジェクト。
今日の繊研新聞で一面トップに掲載されました!商品開発の詳しい様子は下記のサイトで連載中です!https://t.co/DBCJZg2c6G pic.twitter.com/0jnseJNf4w
— 平岡 雄太@DRESS CODE. (@yuta_black) September 12, 2018
驚いたことに一面のトップに大きく掲載していただき、この活動の認知度は一気にアップ。業界内外さまざまな方面からいろんな反響がありました。
想定外の反響と要望に、急遽、集まった意見の中でも特に要望が多かった点を反映させた熟成レザーとは別の革を使った同型の財布も作成。2バージョンで展開することに決めました。
当初はWebサイトでの販売を予定していましたが、話し合いの結果、より多くの人に知ってもらうべくクラウドファンディングのMakuakeにて先行販売することに。
具体的な製品が完成したことで、より様々な人を巻き込み大きく企画が進行していきました。
魅力が伝わる1枚を追求する
今回は製品の企画はもちろん、Makuakeのページや製品の写真までいろんな人の手を借りながら自分たちで行います。
財布の魅力が伝わるだけでなく、見てワクワクしてもらえるように。理想の1枚を求めて何パターンも何枚も写真を撮影しました。
財布の魅力が120%伝わるページが完成
何度も撮り直して何度も書き直して。やっと完成したMakuakeページは、いつもお世話になっている方々に最終チェックをお願い。
分かりにくいところはないか、誤字脱字がないかなど細かい表現まで入念に確認・校正してもらいました。
そしてメインのビジュアル製作はデザイナーのおぎゆかさん(@ogiyk_)にも協力を依頼。素敵な手書き文字で印象的なイメージに仕上げてもらいました。
財布の名前も「PRESSo(プレッソ)」に決定。財布に欲しい“質”と“機能”をギュッと小さく凝縮したことにちなみ、世界中で愛されるエスプレッソをイメージして命名しました。
50人みんなで作った財布です
文章にすると簡単ですが、この財布に関わってくれた方をざっと挙げるだけでも50人以上。6ヶ月に渡っていろんな人と一緒に作り上げてきました。
もちろんその過程では大変なこともありました。それでもぼくらは、1人で早く行くよりもみんなで遠くまで行きたい。自分たちではできない部分は人に手伝ってもらいながら、妥協のない“本当に欲しい財布”を作ることができました。
使ってもらう人からすると出来たものが全てで、こうしたストーリーはあくまで付随的なものだと思います。でもPRESSO(プレッソ)の完成には、こうした沢山の方々に関わっていただいたということを伝えたくてこの記事を書きました。
PRESSoの企画開発に関わって下さった方には改めて、お礼を申し上げたいと思います。ありがとうございました!
PRESSoを作る1人に加わりませんか?
財布というのは使われるために生まれてくるもの。使う人がいて初めて、財布として完成するのだと思います。
PRESSoの先行販売は明日15日(月)から、クラウドファンディングMakuakeにてスタート。この記事を読んで少しでも気になった方がいらっしゃったら、ぜひ応援していただければ嬉しいです。ぼくらと、PRESSoを一緒に作りあげる仲間に加わりませんか?