「靴だけは良いものを履きなさい。良い靴はあなたを遠くへ連れて行ってくれるから」
どこかで聞いたその言葉をきっかけに、ぼくはいつからか靴にこだわるようになった。
そうして靴に興味を持ち始めると、次第に週末の靴磨きがささやかな楽しみに。休日の靴磨きはぼくのこころがゆるむ瞬間でもある。
ねぎらっているのは靴か、自分自身か
定期的に靴を磨くと、靴がいかに汚れているかがよく分かる。ただそれは自分が日々着実に歩を進めている証左でもある。
そんなことを考えながら靴を磨く。靴をねぎらっているようで、もしかしたら自分自身をねぎらっているのかもしれない。
そうしてピカピカになった革靴でまた次の1週間に備える。磨き上げた靴を履いて歩く朝は活力が湧いてくる。
靴磨きは過去の自分と対話し、未来の自分をデザインすること。誰のためでもない、自分だけの時間。
ファッションはくらしを彩る色彩具だと思う
「未来の自分をデザインする」というのは、靴だけでなくファッション全般に言えること。
夜、クローゼットから翌日着る服を選ぶとき、ぼくたちは無意識のうちに明日という日をデザインしている。
――友人と遠出する休日は、動きやすいデニムを履いて。
――大切なプレゼンがある日は、仕立ての良いスーツを。
ファッションはそうやって、くらしを鮮やかに彩ってくれる色彩具なのだと僕は思う。
ぼくのこころがゆるむとき。それは「明日をどんな日にしようかな」と考えながら、靴を磨いたり服を選ぶ、自分だけのひととき。