スマートフォンに付いているカメラを含めれば、今や誰もが一台は持っているカメラ。写真を撮るという行為は昔よりもずっと身近になりました。
そんなデジタルカメラが主流なこの時代にあって、今でもフィルムで写真を撮ることを楽しむ人がいます。
家電量販店では売っていないし、デジカメには当たり前の便利な機能もなし。1枚撮るのにもお金が掛かる。そんな一見不便なフィルムカメラを好んで使う人は、自分なりのこだわりや理由があるはず。
「#私がフィルムカメラを使う理由」は、今の時代にあえてフィルムカメラを使って写真を撮る人に、フィルムカメラの魅力を語ってもらう連載企画。「フィルムカメラに少し興味がある」という人が、一歩踏み出すきっかけとなる連載にできれば。
第1回は都内で映像クリエイターとして働きながら、「フィルムカメラのワタナベ」というnoteを運営する、ワタナベさんにお話を聞きました。
※このインタビュー記事の写真は全てフィルムカメラで撮影しています。
使っているフィルムカメラを教えてください
今はLeica M3とHasselblad 500C/Mを使っています。レンズはLeica M3でモノクロ撮影時は沈胴Summicron 50mm F2、カラーはCarl Zeiss Planar 2/50 ZMで撮影。Hasselblad 500C/MにはCarl Zeiss C Planar 2.8/80 T*を付けています。
今は手放してしまいましたが、過去にはNikon FMやTRIP35も使っていました。
今使っているカメラの気に入っている点はどこですか?
Leica M3はまず見た目が格好良いというのが大切ですね。M型ライカの原点であり、カメラ然としたルックスが好きです。
見た目だけでなく作りも今のカメラではとてもできない贅沢な仕様で、どっしりと高級感ある重みが所有欲を満たしてくれます。
他には写真を撮るときにストレスがないというのも気に入っています。巻き上げのスムーズさやファインダーの見え方が気持ちよくて、使っていて気持ちが良い。機械的に自分が設定できる項目が少ないというのもあり、撮影に集中させてくれるカメラだなと思います。
あとはくだらないことですが、Leica M3を使っていると他のカメラへの物欲が湧きづらいというのもあります(笑)。とても良いカメラだからこそ、目移りせずにきちんとこのカメラを使ってあげたいなと思えるんですよね。
Hasselblad 500C/MもLeica M3と同じで、操作系が絞りとシャッタースピードのみで自分で操っている感が楽しめます。35mmカメラ以上にクラシカルな見た目もグッド。
あと特筆すべきはファインダーの大きさと美しさですね。これは直接見てもらわないと分からないかもしれませんが、正直このファインダーを覗いているだけでも楽しいんです。
あなたがフィルムカメラを使い始めたきっかけは?
岩倉しおり(@iwakurashiori)さんという写真家が好きで、彼女がフィルムカメラを使っていると知って興味を持ったのがきっかけです。最近写真集も出されました。
そこから2017年8月くらいに中古カメラ市へ行き、見た目に惚れてNikon FMというフィルムカメラを買ったのが始まりでしたね。
あなたがフィルムカメラを使う理由はなんですか?
また見た目の話になってしまうんですが、まず雑貨として可愛いのが良いですよね。フィルムカメラは家に飾るだけでも絵になります。
それ以外にもフィルムカメラはネガという物理的な記録装置があって、古いカメラだと特に機械の仕組みだけで光を取り込んで、その瞬間をネガに焼き付ける。
こうした一連の撮影行為を自分でやっているっていう感覚が気持ち良いんだと思います。たぶん僕はデジタルで写真を撮ってるだけなら、写真が趣味になっていなかったかもしれません。
フィルム風の写真というのはデジタルでも編集すればある程度再現できてしまうので、フィルムならではの写りは自分にとってそれほど重要ではないですね。
フィルムカメラとデジタルカメラの違いはなんだと思いますか?
フィルムカメラは不確実性を楽しめる点がデジタルとの違いだと思います。これは僕の腕によるところも大きいですが、構図やボケ感が撮影前に正確には分からないというのが面白くて。
不確実性の中でシャッターを切り、失敗できるのもフィルムカメラの楽しさですね。大人になると何となく色んなことの“勘所”が分かってきたり、立場的にもそう簡単に失敗ってできなくなっちゃうじゃないですか。
その点フィルムカメラは写ってるかドキドキしながら撮る。それでたまに失敗してる。そういう失敗と成功の絶妙なバランス感がフィルムの魅力だと思います。
好きなフィルムを教えてください
モノクロだとKodak Tri-X 400が好きです。モノクロは自家現像しているんですが、自分で現像するとフィルムの質が良く分かるんです。Tri-Xはフィルム自体がしっかりしていて、さすがは長きに渡って愛されているフィルムだなと感じることが多いです。
カラーだとFUJIFILM 業務用100とLomography 400ですね。発色や粒状感もさることながら、やっぱり良い写真を撮るにはたくさん撮るしかないと僕は思っています。
そういう意味で業務用100やLomography 400は、手頃な価格で気負いせずパシパシ撮れるところが好きな点です。見返したときにやっぱりいいなぁと思う写真はこの2つのフィルムで撮った写真が多いですね。
好きな写真家を教えてください
ぼくがフィルムカメラを始めるきっかけにもなった岩倉しおり(@iwakurashiori)さんや、濱田英明(@hamadahideaki)さんの写真が好きですね。身近な人だと写真友達のニシムラタクヤ(@takchaso)さんの撮る写真も好きです。
これからフィルムを始める人にオススメのカメラはありますか?
最初はNikon FMやOlympus OM-1など、使いやすいフィルム一眼がオススメだと思います。見た目もフィルムカメラらしくておしゃれだし、露出計も内蔵しているので撮影も比較的簡単です。
もう一点これは個人的な意見ですが、せっかくフィルムカメラを始めるならデータバック機能(写真に日付が入る機能)が付いたカメラを選ぶと良いと思います。
上の写真はほぼ1年前。珍しく東京に雪が降った日に撮った写真です。
デジタルに比べてネガが残ったりと見返す機会が多いフィルム写真。子供や家族との写真は特に、日付が入るだけで写真に情報がプラスされて思い出の解像度がグッと増します。
L判で大量にプリントした写真をアルバムに仕舞うときにも、日付が入っていると便利だったりします。
フィルムカメラで撮影したお気に入りの写真を見せてください
子供に写ルンですを持たせて出かけた日の写真で、親子でお互いを撮り合いました。「自分のカメラ」というだけで娘のテンションがすごく上がっていて、写真にもその雰囲気が出ているように思います。
こちらはHasselblad 500C/Mで撮った写真。たけさんぽ東京というフォトウォークで撮影した時の1枚で、六本木ヒルズの屋上から夕日を撮りました。中判ならではの迫力のある描写が気に入っています。あとはレンズがやや古くて、逆光が反射しているのも好きです。
フィルムカメラは写真を好きになるきっかけとなる道具
ワタナベさんにお話を伺っていて良いなぁと思ったのが「フィルムカメラは写真を好きになるきっかけの道具」という言葉。
使っていて気持ち良いフィルムカメラを持っているともっと写真を撮りたくなる。そうすると自然に人の写真を見るようになる、そしてさらにそこから試行錯誤する。こうしたサイクルはデジタルではこれまで無かったとワタナベさんは言います。
「今後はデジタルでももっとスナップ撮影がしたい」と語るワタナベさんの姿を見て、本当に写真が好きなんだなぁと感じました。大切そうに手に抱えるフィルムカメラが、そのきっかけの1つとなったのは間違いありません。
Vol.2は下記のリンクから。
あなたがフィルムカメラを使う理由も教えてください
この記事を読んで面白いなと思っていただけたら、ぜひあなたがフィルムカメラを使う理由も教えてください。
Twitterで「#私がフィルムカメラを使う理由」というハッシュタグをつけて投稿していただければ嬉しいです。お話を聞いてみたいと思う方には、インタビューのお願いをさせていただくかも。
フィルムカメラにすごくハマってるんだけど、どんどん廃れていくのはユーザーとしても悲しいし困るから、若い人を対象に「#私がフィルムカメラを使う理由」みたいなインタビューシリーズを記事にしたいな〜 pic.twitter.com/k0Oj9y6eVG
— 平岡 雄太 / DRESS CODE. (@yuta_black) December 10, 2018